私がバイクに乗ったわけ

私がバイク(普通自動二輪)の免許を取得しよう、と思い立ったのは2009年の6月のことでした。
その頃はよく、「人生やり残して悔やむことは何だろう?」と考えていました。自分のことだけを言えば、その中のひとつが「バイクに乗ってみたい」だったのです。すでに移動手段は、安全・快適・便利な自動車があります。それなのに、なぜこの歳で乗ってみたいと思うようになったのか?
私は劣等生でした。高校の成績と言えば、3年間、クラスで39人中の38番目。ビリから2番目は私の指定席、というブービーなヤツでした。当時の私にとって学校とは、大いに笑い、そして笑わせに行くところでした。また、バンドやバイトに明け暮れ、勉強など正直、どうでもよかったのです。
ところが、どれだけサボっても最下位の座に就くことはありませんでした。
なぜなら、例えばテストでクラスの平均点が90点の時、私が小さな丸が3つだけの9点を取ってクラクラしているその隣で、6点の答案用紙を机に広げて悠然としているK君がいたからです。
K君と私とはまったくタイプも趣味も異なりましたが、不思議と馬が合いました。学校の最寄り駅をスルーして京都まで足を延ばしたり(親が呼び出されたり)、テスト期間中に夜勤のバイトをしたり(0点を取ったり)、通学電車でタバコ型チョコレートを嗜んだり(当時は灰皿がありましたので)、と楽しい思い出を作った友人です。
そんなK君は同級生の誰よりもバイクを愛していました。卒業後はよく鈴鹿に走りに行っていたようです。
ある日彼は、バイクに乗ってひょっこり遊びにやって来ました。そして、「後ろに乗せてやるよ」とひと言だけ言い、免許を持っていない私を乗せて近場を走ってくれました。乗せてもらったのはほんのわずかの時間でしたが、すごい加速とエンジンの振動、マシンを操る彼の背中を今でも鮮明に覚えています。
それからしばらくたったある休日の朝、彼のお兄さんから突然電話がありました。「弟がさっき息を引き取りました」と・・・。
彼は枕元に私の連絡先のメモをはさんでいました。バイク事故ではなく、病死でした。発症からわずか1週間、多くのバイク仲間と、婚約者に見送られて22歳の彼は旅立ちました。
寡黙で優しかった彼は、私をバイクに乗せたあの時、何を伝えたかったのだろうか?どんな思いでバイクを走らせていたのだろうか?
私はそれが知りたかったのです。
免許取得後、すぐに「カワサキ250TR」という250ccのバイクを購入し、ギックリ腰になるまでの少しだけ乗っていました。天気のいい休日、田舎道をひとりバイクでテケテケ走りながら、私はヘルメット越しに叫びました。
「おい、K!気持ちいいなー!」
20数年が経ってしまったけれど、やっとあの時の彼の想いに触れたような気がします。
そして今、私はK君に代わって最下位の席次をしっかりと守っているのです。


                 


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